スポーツでは動作に意識を向けるとパフォーマンスは落ちてしまうのか?
プロのスポーツ選手と始めたての初心者では、当然スポーツのスキルに大きな差があります。しかし、プロと初心者の差はスキルだけではありません。スポーツ中の意識の使い方や不安への対応力などにもその差は現れるんですね。例えば、
- プロのスポーツ選手が動作を意識しすぎると、自然な動作ができなくなってパフォーマンスが落ちてしまう
- プロのスポーツ選手はプレッシャーが高い状況でも、素人ほどパフォーマンスが落ちにくい
ということは研究により分かっています。
そこで本稿では、
- スポーツ中に何に意識を向けるかでパフォーマンスは変わるのか?
- プロと初心者でその効果に違いはあるのか?
を調べてくれたシカゴ大学の研究を見てみましょう。
実験:意識の差とゴルフのスイング精度
この研究ではゴルフの経験者(平均8.3年)と初心者を集めて、ゴルフのパットのテストをしています。このときに2通りの意識の仕方を実践していてます。
- 外部音を意識するケース
パットのスイング中に高い音と低い音のどちらかが流れるので、どちらの音が聞こえたのかをスイングしながらすぐ答える - スイング動作を意識するケース
ゴルフのスイング動作をいくつかの段階に分けて、今がどの段階かを意識しながら、いつ音がなったのかを答える。例えばスイングの最初で音が鳴ったとか、最後で音が鳴ったとか。
各参加者はそれぞれの意識で72回ずつ、合計で144回のパットを行って、その精度やスイングの幅が測定されています。
結果:プロと初心者は意識の影響が違う
それで結果を見てみると、
- プロは外部音の高さを意識した時の方がパットの精度がよく、スイング動作を意識するとパフォーマンスは低下してしまった
- 逆に初心者の場合には外部音に意識を向けるとパッドの精度が悪化して、スイング動作を意識するとパフォーマンスが向上した
ということ。
おそらく初心者の場合には、まだスイング動作が体に身に付いていないので、しっかりと動作を意識した方がパフォーマンスが向上するのでしょう。逆にプロの場合には、変に動作を意識すると、それまで培ってきた自然な動作がギクシャクになって、パフォーマンスが低下してしまうようです。
実際にスイング幅の測定結果を見ると、
- スイング動作に意識を向けると、スイングの幅が狭まってしまっていた
ということで、動作への意識が実際にスイングのフォームに影響してしまっていることがわかります。
実験2:意識だけでもパフォーマンスは低下するのか?
実験1の問題点としては、どちらも外部音がなっていて、それがパットの動作に影響している可能性があることです。そこで、次の実験では
- 外部音が鳴ったらスイングを停止する
- 外部音が鳴らなかったら普通にスイングする
という2択でパットを行っています。外部音が鳴らないケースでは、スイング中に音が鳴るかもしれないという意識だけが影響していて、実際の音の刺激は無いわけですね。
結果:意識だけでもパフォーマンスは落ちる
結果を見てみると、
- プロは外部音のスイング停止を意識すると、パットの精度が落ちていた
- 初心者は逆に外部音のスイング停止を意識すると、パットの向上していた
ということ。
音がなってからスイングが停止するまでの動作距離を測定した結果を見ると、初心者の方が停止が早かったことが分かっています。スイングの停止を意識するということは、スイング自体に意識が向きます。そのため、実験1と同様に動作を意識したプロはパフォーマンスが落ちてしまったのでしょう。
まとめ
本稿では「動作を意識すると運動のパフォーマンスは低下するのか?」についてお話ししました。
ポイントをまとめると
- プロ(上級者)が動作を意識しすぎると、それまで培ってきた自然なフォームが乱れて、パフォーマンスは低下してしまう
- 一方で、まだ動作が身についていない初心者の場合には、動作に意識を向けて、しっかりとフォームをなぞることがパフォーマンスの向上につながる
ということ。
練習では動作を意識してフォームを正すことはいいことですが、本番では意識しなくても実践できるように体に覚えさせましょう。特に本番で動作を意識してしまうことには要注意です。
以上、本稿はここまで。
[参考文献]