ワーキングメモリを鍛えると不安も低下するという研究
ワーキングメモリは作業記憶とも呼ばれていて、作業をするために頭の中で必要な情報を一時的に記憶しておく場所になっています。ワーキングメモリの容量が大きい人は、集中力が高かったり、物忘れが少なかったり、読み書き計算がうまかったりと、いわゆる頭が良いわけですね。
そして、ワーキングメモリが高くて頭のキャパシティに余裕があると、感情のコントロールもうまいことが研究により分かっています。怒ったり悲しんだりと、頭の中が感情でいっぱいになってしまうと、他のことを考える余裕がなくなってしまいます。しかし、ワーキングメモリに余裕があれば、頭の中で感情が湧き上がっても、それにうまく対象できるメモリが残るわけですね。
マッコーリー大学の研究では、このワーキングメモリと感情のコントロールについて、
- ワーキングメモリと鍛えれば、不安を低減することができるのか?
を実験して調べてくれていました。本稿ではこの研究を参考に、性格的に不安になりやすい人はワーキングメモリを鍛えることで改善できるのかをみてみましょう。
ワーキングメモリのトレーニングと不安の軽減
マッコーリー大学の研究では、49人の参加者に20日間のワーキングメモリーのトレーニングを行っています。このトレーニングはいわゆるNバック課題を改良したもので
- コンピュータの画面の3×3のマスのいずれかに、一定間隔で信号が現れるので、その信号が出たマスの場所や信号の色を覚える
- この研究では、信号に感情刺激を追加するようにアレンジしている。真ん中のマスには”お金”,”笑顔”などの感情が刺激される言葉が様々な色で表示され、周囲の8マスには怒った顔や泣き顔などの画像がランダムに表示される。参加者は言葉の色と顔が出たマスの位置を記憶する。
- 一回のトレーニングは20分でこれを毎日行う
ということです。
そして、20日のトレーニングの後では、
- ワーキングメモリのトレーニングをした人は不安が低減しているのか?
- ワーキングメモリが鍛えられたことで、感情の抑制がうまくなっているのか?
を測定しています。ちなみにこの研究では性格的な不安を測定しています。これは大きな試合を前にして不安を感じているみたいな状況的な不安ではなく、毎日少しのことでも不安を感じてしまうような性格に根ざした不安になります。
結果:ワーキングメモリのトレーニングの成果
早速結果を見てみると、
- ワーキングメモリのトレーニングを受けた人は、トレーニングの前後で性格的な不安が低下していた(コントロールグループは不安は低下せず、トレーニングを行った人のみ不安の改善が見られた)
- ただし、ワーキングメモリが鍛えられても、感情の抑制は特にうまくなっていなかった
ということ。
想定の通り、ワーキングメモリを鍛えることで確かに不安は減少できるということ。ただし、ワーキングメモリが頭のキャパを上げて、それにより感情抑制がうまくなるという説は今回の実験結果からは支持されませんでした。不安が減少した他の可能性としては、「ワーキングメモリを鍛えることで集中力が向上して、外部の不安などの余計な感情を感じにくくなった」ということも考えられるようです。
ということで、毎日漠然と不安を抱えることが多かったり、頭の中が不安で散漫になりがちな人は、ワーキングメモリを鍛えてみると、不安が減少して集中しやすくなるでしょう。
まとめ
本稿では「ワーキングメモリのトレーニングと不安の減少」についてお話ししました。
ポイントをまとめると
- 20日間のワーキングメモリのトレーニングで、性格的な不安を感じにくくなった
- ワーキングメモリが向上しても感情の抑制はうまくなっていなかったので、集中力が高まって不安の刺激を感じにくくなったなどの他の要因が不安の減少に関係していそう
ということ。
ワーキングメモリは不安の減少だけでなく、記憶力や情報の処理能力にも関係するので、ぜひ高めておきたいものです。ワーキングメモリーを鍛えるのに有名なのはNバック課題なので、アプリなどを探してやってみるのもいいかもしれませんね。
以上、本稿はここまで。
[参考文献]
*1 : The Effects of Emotional Working Memory Training on Trait Anxiety