その場の幸せか、思い出の幸せか。人がどちらの幸せを取るのかの選択の研究

何に幸せを感じるかは人それぞれ違いますし、同じ人でも幸せに感じることはたくさんの種類がありますが、それらの幸せを2つに大別すると

  • やっているときに幸せなこと
  • 後から思い出したときに幸せなこと

に分けることができます。

例えば、旅行に行くとして、まさに旅行をしているときに一番幸せな方がいいのか、それとも後からいい思い出になる旅行がいいのか、ということです。

このどちらの幸せをとるのかは悩ましいものですが、人は想定する期間によってこの幸せの種類の選択の傾向が変わるという面白い研究(*1)があったので、本稿で紹介していきたいと思います。

幸せの選択と期間

この研究では5つの実験により、この2つの幸せの選択の傾向を調べています。

実験1:期間と幸せの選択

最初の実験では1145人を対象に、次の4つの期間に応じてどちらの幸せを選択するのかを調査しています。

  1. 「時」グループ
    次の1時間をその場の幸せか思い出の幸せのどちらで過ごしたいかを聞いたグループ
  2. 「日」グループ
    明日1日をその場の幸せか思い出の幸せのどちらで過ごしたいかを聞いたグループ
  3. 「年」グループ
    これから1年間をその場の幸せか思い出の幸せのどちらで過ごしたいかを聞いたグループ
  4. 「人生」グループ
    これからの人生をその場の幸せか思い出の幸せのどちらで過ごしたいかを聞いたグループ

そして各グループの選択の傾向の結果が次のグラフで

各棒グラフが左から時、日、年、人生となっていて、
グレーがその場の幸せ、白が思い出の幸せのパーセントを表しています。

この結果から分かるのは

  • 想定する期間が長いほどその場の幸せを選択する確率が増える
  • 1時間や1日くらいの短期間では五分五分くらいになる

ということです。

期間が長くなるほど、その期間を思い出作りに費やすよりも、その場その場で楽しみたくなるということですね。確かに思い出の幸せは感じるまでに時間がかかるので、期間が長いとその場の幸せの方がよく思えるのは分かる気がします。

実験2:期間と幸せの選択2

実験2では実験1と同じような実験を選択の質問文を少し変えて実施しています。具体的には思い出の幸せの表現を「後から思い出したときに幸せを感じる」とか「その時間が幸せだったと感じられる」とか少し変えています。微妙なニュアンスの違いで人が受ける印象が大きく変わってしまうことがあるので、そういった誤差が影響しないかを確認しているわけですね。

そしてその結果は実験1と同様で

  • 想定する期間が長いほどその場の幸せを選択する確率が増える

とのこと。質問の表現の問題はなく、この選択の傾向が確認できたということです。

実験3:人生最後の年だとどうか?

実験3では期間を次の3つのグループで分けています。

  • これから1時間をどちらの幸せで過ごしたいか
  • 人生最後の1年の中の1時間をどちらの幸せで過ごしたいか
  • これからの人生をどちらの幸せで過ごしたいか

思い出の幸せはその期間ではなく、後の残りの時間に幸せを感じるので、人生最後の一年となると選択の傾向が変わるのではないかということですね。

その結果が次のグラフで、

この棒グラフは左からこれから1時間、最後の年の1時間、人生となっています。
このグラフから分かるのは

  • やはり人生のような長期間だとその場の幸せを選ぶ人が多い
  • これから1時間と最後の年の1時間ではどちらも50%程度で同じだった

ということです。つまり、この選択の傾向は、人生の最後の年とかは関係なく、純粋に期間の長さ(人生か1時間か)で決まっているということが分かったわけですね。

実験4:期間の感じ方で変わるのか?

次の実験では1週間の春休みという同じ期間に対して

  • 一年間のカレンダーで春休みの週を見せたグループ
    (1年の中の1週間なので期間が短く見える)
  • 1ヶ月のカレンダーで春休みの週を見せたグループ
    (1ヶ月の中の1週間なので期間が長く見える)

で選択の傾向が変わるのかを確認しています。つまり1週間をどれだけ長く感じているかの認知が選択に与える影響を調べたわけですね。

その結果は

  • 春休みを短く感じさせた参加者が思い出の幸せを選ぶ確率は60%だった
  • 春休みを長く感じさせた参加者が思い出の幸せを選ぶ確率は77%だった

ということで、期間の絶対的な長さでなく、その期間をどれだけ長く感じるかの認知が選択に影響していることが分かりました。

実験5:文化の違い

最後の実験では西洋(イギリス・オランダ)と東洋(中国・日本)で同様の実験をして、文化による違いがあるのかを検証しています。

その結果は次のグラフで

日本や中国ではグレーの棒グラフの割合に差がほとんどないことがわかります。
つまり

  • 日本や中国では、期間に寄らずにその場の幸せを選択する傾向が強かった

ということですね。なぜこのような違いが生まれるのかはわかりませんが、日本人は思い出の幸せよりも、その場を楽しむことを好む傾向があるみたいですね。

まとめ

本稿では「その場の幸せか、思い出の幸せかの選択の傾向」についてお話ししました。

ポイントをまとめると

  • 人には長い期間になるほどその場の幸せを選択する傾向がある!
  • 期間が長いかどうかはその人の感じ方次第で決まる!
  • ただし日本や中国では、この傾向は見られずに短い期間でもその場の幸せを優先する傾向があった!

ということですね。

その場の幸せと思い出の幸せはどちらがいいというわけではありませんが、幸せにはこういう考え方もあるということでなかなか面白いですよね。自分の幸せを考える上でも一つの切り口として参考になるのではないでしょうか。

以上、本稿はここまで。


[参考文献 ]

*1: Preferences for experienced versus remembered happiness

Naoto

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

コメントする