前の仕事の経験は新しい仕事のパフォーマンスにほとんど影響しない説

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日本ではまだ終身雇用の文化が強いですが、アメリカなどの外国では転職を繰り返して、自分のキャリアアップをするようなことが普通に行われていると言います。

このとき、転職の採用者の立場になって考えてみると、応募者をふるいにかけるときに最も重視する項目の一つは前職での経験です。営業職であれば営業経験、技術職であれば技術職の経験と、求めているポジションに一致する経験を積んでいる人の方が、即戦力として高いパフォーマンスを発揮してくれることが期待できるわけですね。

しかし、仕事のスキルや知識には他の会社では役に立たない特有の知識もあったりして、前職の経験が全て役に立つわけでわありません。そこで本稿では、

  • 前職での仕事の経験は、どれだけ次の仕事のパフォーマンスに役に立つのか?

について調べてくれた研究を見ていきたいと思います。

前職の経験でどれだけの差が出るのか?

フロリダ州立大学らの研究では、転職前後での仕事のパフォーマンスを調べた75件の研究をメタ分析でまとめています。

このメタ分析では、75件の研究を総合して

  • 前職の経験は、次の職の仕事のパフォーマンスにどれだけ影響するのか?
  • 前職の経験は、次の職のトレーニングのパフォーマンスにどれだけ影響するのか?
  • 仕事の複雑度によって前職の影響の強さは変わるのか?

といったことを分析してくれてます。

結果:前職の影響の大きさ

早速メタ分析の結果を見てみると、

  • 前職の経験は、次の仕事のパフォーマンスアップにほんのちょっとだけつながっていた(ρ=0.06)
  • 前職の経験は、次の仕事のトレーニングのパフォーマンスにもちょっとだけつながっていた(ρ=0.11 )

ということ。

確かに前職の経験は次の仕事へ行かされるようですが、その影響度はほんの少しみたいです。また、仕事のパフォーマンスよりもトレーニングのパフォーマンスアップの影響の方が少し強くなっています。これは転職後に新しい仕事になれるまでの訓練期間でも、前職の経験が活かされていることを示しています。

さらに、前職の経験の影響が、転職後に時間とともにどう変化していくのかの分析結果を見てみると、

  • 転職から1〜3ヶ月の間でρ=0.22、
  • 転職から6〜12ヶ月の間でρ=0.08
  • 転職から12ヶ月以上でρ=0.05

となっています。つまり、前職の経験は転職して最初の頃は役に立っても、新しい仕事での時間が経つにつれてどんどんと影響力が薄れていくということです。最初からややパフォーマンスが高めので、即戦力として期待できるのは正しいかもしれませんが、半年もすればその差はほぼ無くなっているので、長期的なパフォーマンスを期待するならもっと他の要素も吟味した方が良いかもしれません。

結果2:仕事の複雑度で前職の影響力は変わるのか?

特別な知識や技術を必要とするなど、複雑な仕事ほど前職の経験が役に立つことが期待できます。そこで仕事の複雑度別に前職の経験の影響度を分析した結果を見てみると、

  • 複雑度が低い仕事でρ=0.25
  • 複雑度が中程度の仕事でρ=0.07
  • 複雑度が高い仕事でρ=0.29

となっています。

確かに複雑度の高い仕事では、前職の仕事の影響が一番大きく出ています。複雑度の低い仕事でも高めになっていて、複雑度が中程度で落ち込むという面白い結果になっています。うーん、複雑度が低い仕事で前職の経験が強く影響する理由はよくわかりませんね。

結果2:経験の粒度

最後に前職の経験と今の仕事が、どの程度の粒度で一致しているのかの違いの影響を見てみましょう。これは、「営業職」という大きな粒度の括りで前職と一致しているか、「自社が扱う薬品の医者への営業」のようにより細かい粒度で前職と一致しているかの問題になります。

その結果は

  • タスクレベルで前職の経験があると、次の仕事のパフォーマンスはより大きく向上していた(ρ=0.32)
  • 仕事レベルで前職の経験は、次の仕事のパフォーマンスにほとんど影響しなかった(ρ=0.00)
  • 職業レベルの前職の経験は、次の仕事のパフォーマンスにほとんど影響しなかった(ρ=0.06)

ということ。

なので、具体的なタスクレベルで前職で同じような経験をしていれば、それを次の職でも活かしていけるということです。

まとめ

本稿では「前職の経験は次の仕事のパフォーマンスにつながるのか?」についてお話ししました。

ポイントをまとめると、

  • 全体としてみると前職の経験は次の職のパフォーマンスにほんの少ししか影響しない
  • ただし、複雑度が高い仕事の場合、または前職の経験がタスクレベルで一致している場合には、次の職のパフォーマンスへ活かされやすい

ということ。

複雑度が高く専門スキルが必要な仕事の場合や、即戦力が必要な場合には、タスクレベルで前職の経験が活かせるのかをしっかり判断した方が良さそうですね。一方で、複雑でない仕事の場合や、ある程度訓練期間の猶予がある場合には、前職の影響はほとんどないので、長期的に伸びそうな人かどうかで採用を判断したほうが良いかもしれません。

以上、本稿はここまで。


[参考文献]

*1 : A meta-analysis of the criterion-related validity of prehire work experience

Naoto

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