教科書を電子書籍にすると成績は下がらないのか問題
紙の本と電子書籍のどちらがいいのか問題があって、過去のメタ分析では紙の本の方が若干だけど理解力を上げてくれるという結果が出ていたりします。
この研究結果からすると、全く同じ文章を紙で読む場合と画面で読む場合を比較すれば、確かにこの理解力の違いは現れるでしょう。しかし実際には、電子書籍にすることで読書の体験そのものが変わる可能性もあります。例えば、最近の電子書籍では文章にリンクがつけられるようになっています。そうすると、練習問題の回答がリンク先のURLで見られたりとか、教科書の内容を分かりやすく説明した動画のリンクが見れたりとか、紙の本ではできない体験が電子書籍ではできるようになっているんですね。
そこで、アタバスカ大学の研究(*1)では
- 大学の授業で使う教科書を電子書籍に置き換えた場合に、成績は低下してしまわないのか?
ということを実験していました。1学期分の授業を通した成績の変化を見ることで、読書の体験の違いも含んだ電子書籍の効果が測定できる分けですね。
実験:紙の本と電子書籍で成績は変わるのか?
この研究ではアタバスカの財務会計の授業(6ヶ月コース)を対象に、
- 紙の本で受講する場合
- 電子書籍で受講する場合
の2つの場合で成績に違いが出るのかを比較しています。電子書籍は関連情報のリンクなども盛り込んだものを作成しています。
どちらのコースを選ぶかは参加者の自由になっていて、最終的には紙の本のコースが75人、電子書籍のコースが34人となっています。講義の難易度は結構高めで、139人はコースの途中でドロップアウトしています。
結果:電子書籍で成績は下がってしまうのか?
早速結果を見てみると
受講前の試験 | 受講後の成績 | |
電子書籍 | 32.6% | 78.8% |
紙の本 | 35.1% | 76.8% |
ということ。この表を見ればわかるように、
- 電子書籍でも紙の本でも成績は同じだった
という結果が得らています。過去のメタ分析では電子書籍を使うと少しだけ文章の読解力が低下するという話でしたが、読書の体験の変化なども考慮すると、総合的な成績の変化は無いということですね。
結果2:電子書籍のメリット・デメリット
次にこの研究の中で電子書籍を使った参加者が体験したメリット・デメリットを見てみましょう。
メリットとしては
- 目次機能が便利で、自分がみたい内容にすぐに飛ぶことができる
- 紙の本を持ち歩く必要がなく、PCやスマホがあればいいので持ち運びに便利
- 必要な関連情報だけプリントして、画面と組み合わせながら読むなどの柔軟な活用もできる
デメリットとしては、
- 画面で細かい字を見るのは目が疲れるし疲労感もたまる
- 紙の本のように自由な場所で自由な姿勢で読むことができない
(PCを使う人の意見で、スマホとかkindleを使えば解決はできる) - フォントのサイズの変更の仕方がわからないなど、使い方がわからずに不便を感じる人もいた
- 文章にマーカーを引いたり、コメントを書き加えたりするのが自由にできない
- 家に一台しかPCがないと、他の人が使っている間に教科書が見れなかったりする
ということ。
最初は電子書籍を選んだけど、結局印刷したものを見ていたり、途中から紙の本に切り替えたという人も結構いたようです。なので成績の面で見れば電子書籍に悪い効果はないけど、読書の体験として電子書籍が自分に合う合わないはあるみたいですね。
まとめ
本稿では「電子書籍で成績は落ちないのか?」についてお話ししました。
ポイントをまとめると
- 教科書を電子書籍にしても授業の成績は落ちたりしない
- 電子書籍がその人の読書スタイル合わないこともあるので、紙の本か電子書籍化かは自分のスタイルにあった方を選べばOK
ということです。
注意点としては、今回の研究は1つの授業のみで分野も会計に限られていることです。数学の授業や英語の授業など、分野が変わることで電子書籍の効果が変わる可能性もあります。
私はもっぱら電子書籍派で、理由は
- 何百冊もの本をスマホ一台で持ち運べる
- 隙間時間にスマホを開くだけで、そのときの気分にあった本をさっと読める
- 英語の文献では単語をクリックするだけで辞書が引ける
- 技術系の本だと論文のリンクが貼ってあるものもあってかなり便利
- ノートやマインドマップにまとめるときに、スクリーンショットで簡単に切り抜きできる
というのが気に入っています。デメリットとしては、電子書籍は中古本がないので、物によっては紙の中古本の方が安いことがあるくらいでしょうか。
以上、皆さんも自分に合った読書スタイルを探してみてください。
[参考文献]