人は平等を好むが、不平等も好きだという研究
本稿のテーマは「不平等は本当に悪いものなのか?」です。
格差社会という言葉があるように、収入の格差や教育の格差などの社会の不平等が問題として取り上げられるようになりました。不平等はすっかりと悪者ですね。
確かに先進国ではお金持ちがどんどんとお金持ちになって格差が広がっている傾向があるようで、今となってはトップ1%のお金持ちの世界の50%の富を持っているという驚きの格差具合です。
もちろん、これらのお金持ちの富を、貧困層の救済などに当てて格差をなくすことは倫理的に正しいことだと思います。しかし、格差を無くそうと追求しすぎて全ての人が同じ収入という社会もどこか不自然に感じます。仕事の成果が違ったり、働いている時間が違ってもみんな同じ収入というのは納得いかないでしょう。
このように、不平等は完全に悪者というわけでもなく、適切な不平等は必要だという考えもあって、実際に人は不平等な社会を望むという研究結果もあるんですね。
そこで、本稿では不平等についてまとめてくれた研究(*1)を参考に、人は平等についてどのように考える傾向があるのかについてお話ししたいと思います。
人は平等が好きだが、不平等も好き
平等に関する研究を見ると、人は平等を好むという研究結果もあれば、人は不平等を好むという研究結果もあります。
人が平等を好むとき
様々なシチュエーションで人がどのように物や富を分配するのかを実験した研究が多々あって、それらの研究によって分かったことは
- 人には全く関係ない人と物や富を分け合うときでも、平等に分配しようとする傾向がある
- 分配の前に意図的に不平等な状況にしておくと、その不平等をなくそうという分配をする傾向がある
- 不平等に分配した方が全体の総益が高くなる場合でも、人は平等に分配することを選択する傾向がある
ということ。人は何かを分配するときには、できるだけ平等になるように分配するのを好むようですね。
さらに、
- 人は平等な分配をすることを道徳的に正しいと感じている
- 3〜8歳の子供でも平等な分配を好む傾向がある
- 人は平等に分配してくれる人を好む傾向がある
ということも分かっていて、まとめると
- 人には平等を好む強い道徳心があって、それは子供の頃から備わっている
ということなんですね。
人が不平等を好むとき
一方で人が不平等を好むという研究結果もあって、
- 小さなグループを作って分配の実験をした場合には平等を好む傾向があったが、現実社会のグループでの分配では不平等を好む傾向があった
という面白い結果となっています。
それで、もう少し具体的に研究の中身を見ると、
- 「あなたが住んでいる社会で、どのような富の分配が望ましいですか?」という質問に対しては、みんなが平等な分配と答える人は少なかった
- 平均すると貧困層と裕福層の富の比率が1:4ぐらいの不平等がちょうどいいと答えた
ということなんですね。
身の回りの人と食べ物を分け合うのとは違って、社会全体の問題ともなるとまた違った傾向が出てくるということですね。
結局は公平感が大切
人には平等を好むときもあれば、不平等を好むときもあるということで、矛盾してしまいましたが、
- 結局は大切なのは公平感
ということなんですね。
つまり、
- 人が平等に食べ物を分け合うのはそれが公平だと感じるから
- 一方で社会が不平等であることを好むのも、人の能力の違いなどを考えると、それに応じて富を不平等に分配するのが公平だと感じるから
ということです。
なので、数値的な平等・不平等はあまり意味はなく、それを公平だと感じるかどうかが一番大切ということですね。
ここで注意が必要なのは、人によって公平の感じ方は違うということです。例えば、バリバリ仕事ができる人は、格差が生まれるとしても自分の業績に応じた業績給を望むかもしれません。一方で、自分の好きなことをしてまったりと働きたい人は、自分の業績に依らない安定した給料を望むかもしれません。
不平等よりも公平感で考えよう
お金持ちと貧困の格差の話に戻ると、この研究が言うには、大切なのは「格差が広がっているという不平等」ではなく「生活に困っている貧困者を助けるべき」という道徳観ということなんですね。
例えば、全員が必要十分な収入があって幸せに暮らしているのなら、他人が贅沢をしてたとしても、自分の幸せには関係ないと思えるので、不平等はあまり問題になりません。
なので、この格差の問題を解決するためには「どうやって格差をなくすか?」ではなく、「どうやって貧困者を助けるか?」を考えることが本質的ということですね。
まとめ
本稿では「人が平等と不平等をどう考えるのか」についてお話ししました。
ポイントをまとめると
- 人は平等に分け合うことを良しとする道徳感が子供の頃から持っている
- 一方で社会の問題などになると不平等を望む傾向もある
- 平等が良いか、不平等が良いかは、何を公平と感じるかによって変わる
ということですね。
平等・不平等はそれ自体には良い悪いはなく、それを人がどう感じるかの問題ということですね。人によって感じ方が違うのが難しいところですが、この観点は意外と大切なのかもしれませんね。
以上、本稿はここまで。
[参考文献]
*1: Why people prefer unequal societies